京都地方裁判所 昭和44年(行ク)3号 決定 1969年5月15日
申立人
ポール・イー・サイモンこと
ダニエル・D・デニス
右代理人
小野誠之
同
崎間晶一郎
被申立人
京都府川端警察署長
林良太郎
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
申立の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
申立人は、要するに、被申立人が申立人を「刑事特別法」第一八条により逮捕してアメリカ合衆国軍隊に引渡すことを予め阻止することを求めているものである。
しかし、行政事件訴訟において、それに付随して求められるのは、行政事件訴訟法第二五条第二項により「処分の効力、処分の執行又は手続の全部又は一部の停止」に限定されており、本件のような将来における公権力の行使を予め阻止することは、右のいずれにも該当しないこと明らかであるから、申立人の本件申立は不適法として却下し、申立費用につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。(前田治一郎 緒賀恒雄 那須彰)
〔申立の趣旨および理由〕
申立の趣旨
被申立人が申立人に対して有する「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区城並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」第一八条第一項、第三項に基づく逮捕権並に合衆国軍隊への引渡権は仮にその効力を停止する。
申立費用は被申立人の負担とする。
との裁判を求める。
申立の理由
(一) 申立人が被申立人により現に逮捕されて、合衆国軍隊へ引渡しを受ける具体的惧れ並に差し迫つた危険が存在すること
被拘束者の経歴と拘束されるに至る経緯
<中略――京都地裁昭和四四年(人)第一号事件の〔請求の理由〕と同一。>
(四) 右逮捕並に米軍隊へ引渡された場合には回復し難い損害が原告に生ずること
原告は前記の通り米軍における軍務を拒否して脱走したものであるから、右逮捕により米軍に引渡された場合には米軍における軍事法廷において裁判を受けることは必至であり、その結果処罰を受ける地位にあり、直ちに再びヴトナムの前戦基地に送られる可能性が強く、その生命身体に対する損害危険は回復し難いものがある。
更に、言うまでもないことであるが、原告が逮捕されたあかつきには、日本国政府並びに国内司法権は一切及ばず前記損害は全く救済の方法がないのである。